偽書「東日流外三郡誌」事件

Posted at : 2010年 / 06月 / 16日


朝までブラジル×北朝鮮見てまして、ちょっと眠いです。

まあそれはそれとして、面白かったです。
斎藤光政『偽書「東日流外三郡誌」事件』(新人物文庫)。
2006年の単行本を文庫化したもの。

正直言いますと、『東日流外三郡誌』を始めとした一連の「和田
文書」について初めて知ったのが、原田実さんが「と学会」で
発表したレポートでして、『東日流…』なる文書が70年代に大
ブームを巻き起こしていたこともよく知りませんでした。

90年代のある裁判をきっかけに、当時青森の地方紙記者だった著者は、
この壮大にして呪わしい架空史書が、いかに多くの人に影響を与え、
地元自治体を振り回してきたかを追い続けることになります。

事件のあらましだけを知りたければ、原田実さんの簡潔にして意を
尽くしたレポートがありますのでそちらがオススメですが、こちらは
11年にわたり関係者に取材し続けた渾身のルポルタージュ(ちなみに
原田さんご本人も、重要な取材パートナーとして本書に登場します)。

端的に言うとこの事件、和田喜八郎という天才的な詐欺師が、
次から次に「歴史上の大発見」である文物を捏造しては、
半世紀にわたって人のいい自治体や個人からカネを巻き上げていた
というだけのもの。

それがなんで何十年も法的処罰もされず、被害者が陸続と現れる
ことになったのか。事件を報じる著者は、その要因に淡々と
光を当てていきます。

「捏造と知りつつ補強に加担する悪質な史学ゴロの存在」
「偉い先生のお墨付きがあるらしいから、とよく調べもせずに
飛びついてしまう自治体」
「同じくよく調べもせずに無責任なセンセーショナリズム記事を
書き飛ばし続けたマスコミ」
「議論にも値せずと黙殺を続け、世間への警告を怠った学界」
「中央への絶えざる不信とコンプレックスを持つ東北人の心性」

こうした要素が絡まりあい、「和田文書」は小さな山村から巨大な
神話へと膨れ上がっていったようです。

記者出身らしく平易な文章で、一気に最後のページまで読ませて
しまう好著ですが、ただ一点不満を挙げるとすれば、著者はついに
最後まで和田喜八郎本人に直接取材ができなかったということ
でしょうか。事実上の取材拒否を受けていたとはいえ、この点は
和田の死の直後、著者自身も深く悔いている場面があります。

事件自体もたいへん面白いのですが、おそらく読者の多くは、
半世紀の間、日本中に向かってしょーもないウソをつき続け、
ついに一度たりとも己の非を認めることなく死んでいったこの
怪人の人となりに、より興味を引かれたのではないでしょうか。
少なくともわしはそうです。

わし個人は、多分この人は一種のサイコパスだったのだろうと
思います。ウソをウソで塗り固めることになんの衒いも覚えず、
最後には自分のウソを信じ始める。いいかげんなウソをあまりに
平然とつくので、聞いている方が混乱し不安になってしまう。
そしてそんな異様な人格は、ある人々にとっては実に魅力的に
映る……。生前の和田本人に誰も取材していないというのは、
これはこれでまたひとつの文化史的損失だったかも知れません。


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