『暁の聖歌』

Posted at : 2010年 / 12月 / 19日

久しぶりに吉屋信子を読む。

昭和十二年初版。吉屋2冊目の長編少女小説。長編といっても
現代の感覚なら薄めのラノベ程度の分量で、早い人なら小一時間も
あれば読めてしまう、いろんな意味でかわいい小説。

戦前の北海道を舞台に、母を知らない少女ちえの幼女期から
思春期を描く、ジャンル的には「まぶたの母もの」でしょうか。
もっとも、当時はびこっていた、ただ扇情的なだけのお涙頂戴
ではなく、たとえば幼女期に登場する、学校で差別を受けている
アイヌの少女との友情では吉屋らしい高い社会意識が描かれます。

またお涙頂戴的には最高の見せ場になる、落ちぶれた父と後妻の
家に入れられたちえが散々に搾取されるくだりは、ごくさらりと
流してあります。こういう品の良さも吉屋の魅力ですね。

百合成分はそこそこ。『わすれなぐさ』を100とすると、60程度
ですかね。寄宿舎の室母である柿沼さんとの関係がかなりの
百合っぷりです。割と唐突に登場してあっさりお姉さまになって
しまうあたりは「ううむ」ですが、『貴女に今よりもっと近く
なることですの』とか言って、ちえの保護者である叔父と結婚
しちまうあたりの柿沼さんのガチっぷりが凄い。

で、人妻となって血縁者となった柿沼さんですが、やっぱり
「叔父様にお姉様を取られた」とやきもち焼いてすねちゃう
ちえが可愛らしいわけです。13歳の女の子ですからね。よく
考えたら13歳と18歳の百合ってのもえらいこっちゃですが。
ロリコンですがな( ̄▽ ̄)

しかもこの二人の関係は実は刺身のつまでして、クライマックスは
ちえに母と名乗れない、しかしずっと見守っていた女性との再会。
病室で寝たふりをしているちえの唇に、感極まってキスしてしまう
百合ママンは吉屋の真骨頂。

そういえば『花物語』にも、『日陰の花』という、群を抜く耽美
的な一編がありましたね。暗い洋館の奥深く、自分に瓜二つの
母の肖像画にただならぬ思慕を抱いてしまう美少女の話。可憐な
エピソードが並ぶ『花物語』にあって異彩を放つ、官能的な
美文体の異色作。ちょっとそれを思い出したりしましたハイ。



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