『第9地区』

Posted at : 2010年 / 06月 / 07日


久しぶりに映画館へ。『第9地区』@シネマロサ。

あーん期待でかすぎたのかなあ。全然面白くなかった。
つーか始めっからイライラしっぱなしだった。

ある日突然、南アの首都上空に降下した巨大な宇宙船。その中に
いたのは、「たくさんの」(ここが第1のイラッ・ポイント)
エイリアン難民。難民たちは宇宙船直下の地区に隔離され、
20年が過ぎた。「第9地区」と呼ばれたエイリアン地区は、巨大な
スラムと化していた……これが物語の舞台です。

主人公は、政府から第9地区の管理を委託されている多国籍企業
MNUに務める白人男性。嫁のコネで出世している、笑顔の卑屈な
典型的な小役人的人物です。開幕と同時に、エイリアンの強制移転
計画の責任者に任命されホクホク顔。エイリアンに対しては終始
何の同情心も持っていない。死のうが虐待されようがどうでも
いいのです。

ところが、この移転命令告知の作業中、うっかりエイリアンの
電池の汁的なものを浴びてしまい、肉体のエイリアン化が始まって
しまう。エイリアン遺伝子を持つ者は、エイリアンの超兵器を
使うことができるため、MNU社は主人公を商売のため標本にしよう
とする。必死に逃亡する主人公……というプロット。


まずファーストコンタクトSFのキモというのは、やってきた
エイリアンがどれほど地球人と違うのか? という点を描くこと。
どのような価値観を持ち、どのような文化を育み、どのような
ライフサイクルを持つのか。SF作家の腕の見せ所なわけですが、
ここが全く描かれない

卵生の節足動物型ヒューマノイドで、アリやハチのような社会性を
持つが、どうやら頭脳階級は逃げたか死に絶えたらしい。説明は
これだけ。接触時点で何千体いたのかとか、そういうごく基本的な
具体的情報がまず観客に示されない。ここにイラッとくるわけです。

ていうか、このエイリアン、外観がエビみたいで醜悪という以外、
ほとんど人間なのです。子供を慈しむ様子も、物々交換を交渉する
仕草も人間そのもの。なんと人間とセックスまでできるとかもうね。
遠い世界からやってきたエイリアンは、人間とほとんど同じメンタ
リティの持ち主だったわけです。面白くもなんともねえですね。

この監督は南ア人なんですが、この作品には「いかなる人種的アナ
ロジーも含まれていない」と名言しています。が、要するにこの
エイリアンは被差別民としての黒人としか思えません。だって
メンタリティが地球人と同じなら、エイリアンである意味ないです
もん。

そのうえ、このエイリアンというのが20年も居座っているくせに、
農耕を始めるとか牧畜を始めるとか階級社会を再構築するとか
人類と知的な交流を持とうとするとか、そういう努力のあとが
一切見られない。ただゴミの山を這いずり、やってきた人間の
ギャングたちにいいように搾取されるだけ。

では穏和で平和的な生物なのかといえば、人間の武器も使うし
人間の肉も食うし略奪もするし、いきなり攻撃もしてきます。
割と攻撃的です。しかも文化はないくせに卵だけは産んで勝手に
増え続けています。もうクズみたいな連中です。で、底なしの
バカなのかといえばそうでもなく、一部の知的階級の連中が
オーバーテクノロジー兵器を隠し持っていて、気分の悪い奴らな
わけです。何しろ人間と同じメンタリティですから。

人類の方が文明的接触を断絶し、かつかれらの文化的活動を阻害
しているというならわかりますが、そうした描写はあまりハッキリ
描かれていません。両者は言語で明瞭なコミュニケーションを
とっていのるで、少なくともある程度知的な接触は長時間あったと
見るべきでしょう。

「いや実はそうだったんだよ。人間が悪かったんだよね」と後から
言われても、観客に伝わらないのでは単なる言葉足らずです。
ここもイラッ・ポイント。

あれっ、ちょっと待って下さいよ。
このグズで怠惰なエイリアンが、黒人のアナロジーだとしたら、
この監督のメッセージって、とんでもなく失礼じゃありません?
「まあ連中は一部にアタマのいい奴もいるけど、ほとんどは奴隷
根性のバカばっかりだから」てことでしょ?

さて第9地区に逃げ込んだ主人公は、地区で唯一知的な作業をして
いるエイリアン「クリストファー」と再会します。実は主人公が
勝手に盗み出した電池的なものは、彼が20年掛けて作った宇宙船の
起動用燃料。あれさえあれば母船に戻って、エイリアン化した自分
の肉体を元に戻せる。そう聞いた主人公は、エイリアン兵器を
使ってNMU本社のラボに突入。ブツを奪還します。

ここから追ってきた傭兵部隊と大戦闘。エイリアン用のパワード
スーツがなぜかぴったり着用できて、主人公大暴れ…なんですが、
もともと自分勝手なクソ野郎のくせに、肝心なところで人殺しを
躊躇したり、躊躇したうえに結局中途半端な虐殺を始めたり、
なんなんだよお前は! イライラするなあ!
やるんならとことんヒャッハーって暴れろよ!

まったくもってSF的驚きは与えてくれず、暴力のカタルシスもなく、
あるのは手垢の付いた古くさい人種差別アナロジーときた日にゃ
もうウンザリです。

ドキュメンタリーフィルム風のSFなのに、細かいところにリアリティ
がないがしろになってて、ここもイラッ・ポイント。たとえば
エイリアンの何かが感染した検体を調べるのに、技師が誰も顔に
バイザーしてないとか。近未来のハイテク兵器企業のくせに携帯
電話で逃亡者の居所をすぐ調べられないとか(それをやるのは半日
もたってから。確かに携帯は見知らぬ人から盗んだものですが、
即かけた相手は奥さん。そして奥さんはMNU重役の娘)。

主人公は主人公で、追われる危険性にも気づかず携帯電話を手放さ
ないばかりか、ラボから脱走した直後にのこのこ帰宅しようとした
り、肉体さえ治療できれば元の生活に戻れると本気で信じていたり、
正直救いようのないバカ。てかこの映画の登場人物、バカばっかり。

つーか人類は母船にヘリコプターで乗り込んだんだから、クリスト
ファーはヘリで母船に帰って、そこで作業してたらよかったんじゃ
ないの? 人間からテクノロジーを守るための兵器はあるんだし、
それを使うのに躊躇しない奴隷階級もいるんだし。あー、エイリアン
が地球人とは異なる長い時間感覚の持ち主らしいことは暗示されて
ますが、それは重要なポイントなので、もっとハッキリ描写する
べきでしょ。少なくとも不便なスラムで20年コツコツ作業するより
能率的だったのでは? それに、早く出てってくれた方が人類も
喜ぶんだし。

つまるところ、監督がどう言い訳しようと、「ゲットーの黒人ぽい
エイリアン」のイメージがまずありきだったのは明白で、その時点
でその発想は陳腐このうえないと言わざるを得ません。主人公は
一貫して利己的なクズみたいな奴で、彼がクリストファーのために
身を挺して戦うのは、いよいよ最後の最後、もはや自分になんの
希望もなくなってからに過ぎません。否応なく、彼はエイリアン
として生きることになりますが、観る者にとってそれは救いでも、
アイロニーですらありません。「クズが自分のヘマで別のクズに
なっただけ」というお話です。なんだこりゃ。

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